「トマトは野菜ですか?それとも果物ですか?」と聞かれたら、日本人の大半はこう答えるでしょう。「野菜です」と。一方、フランス人に同じ質問をすれば、こう返ってくるはずです。「トマトはフルーツさ」――。
くだものは花が咲いた後の果実を食べるもの、こう考えると、トマトもフルーツ、果物ということになってしまいます。でも私たちは主食としてトマト・スパゲッティを食べ、副菜としてカプレーゼを、ミネストローネを、あるいは卵と一緒に炒めたりして――楽しむわけです。いや、「果物」は「デザート」ではないか。いやいや、トマトはデザートではない!本当はどっち?
というわけでトマトは野菜なのか果物なのか、過去実際にあった議論などもふくめ、考察しつつ紹介していきます。
トマトは野菜か、果物か。結論は「場合による」
いきなり結論を記します。トマトが野菜か果物か、答えは「そのひと次第」です。つまり、世界中の誰もが納得せざるをえないような、そんな明確な決まりはないということです。
トマトは、植物学では「果物」、食卓に並ぶ感じでは「野菜」とされ、役所は「果菜」(果実を食べる野菜)と表現しているなど、立場によってどう主張しても構わないと言えます。フランスや台湾など、国によってはフルーツの扱いをしているところもあります。そういう国では、フルーツの盛り合わせにトマトが混ざっていたりします。
英英辞典の定義
辞書の定義を見てみますと、たとえば英英辞典では
a soft fluit with a lot of juice and shiny red skin that is eaten as a vegetable either raw or cooked (OLD)
(やわらかい果実で、果汁が多く、皮はぴかぴかの赤。野菜として食され、生でも調理してもよい。)a round soft red fruit eaten raw or cooked as a vegetable (LED)
(丸くやわらかい、赤い皮の果実で、野菜として食べられる。生でも調理してもよい。)a red or yellowish fruit with a juicy pulp, used as a vegetable (COL)
(赤い、または黄色っぽい果実で、果肉はジューシー。野菜として用いられる。)
など「果実」(≒くだもの)であることをまず記してから、野菜扱いである、みたいな流れにどれもなっています。植物学的には果物だ、という根底があるのかもしれません。ちなみに同じなかまのナスも fruit と説明しています。
国語辞典の定義
国語辞典では、このような定義が見られます。植物としての特徴をたんたんと述べており、野菜か果物かは明記していません。
ナス科の多年草。栽培上は一年草。高さ1~1.5メートル。葉は羽状複葉。全体に白い毛があり、特有の匂いがある。夏、黄色い花を開く。実はやや平たい球状で赤く熟す。(後略)
農林水産省の定義
農林水産省では,トマトは「野菜」とし、そのうちの「果菜」という分類になっています。
消費量が多く国民生活にとって重要な野菜として野菜生産出荷安定法で定められた野菜。ダイコン、ニンジン、ハクサイ、キャベツ、ホウレンソウ、ネギ、レタス、キュウリ、ナス、トマト、ピーマン、ジャガイモ、サトイモ、タマネギの14種類。
まとめ:立場による「トマトはどっち?」
各国の認識や学術的な定義、行政における定義などをまとめてみました。
日本、アメリカでの認識 | 野菜 |
フランス、台湾での認識 | 果物 |
植物学での定義 | 果物 |
農林水産省での定義 | 果菜(実を食べる野菜) |
英語の辞書での表記 | くだものだけど、野菜扱い |
参考:野菜と果物のおおまかな定義
・野菜…田畑で育つ、草本性、おかずになる
・果物…木で育つ、花が咲いたあとの実を食べる、デザートになる
トマトは野菜に分類されることが多く、なおかつ果物の考え方にもあう部分があるので「果菜」と表現されています。「果菜」とは、果実の部分を食べる野菜のことで、トマトの他はナス、キュウリ、ピーマン、インゲンマメなどが当たります。
イチゴ、スイカ、メロンなどは果物っぽいですが、特徴は野菜そのものなので「果実的野菜」と言われます。
過去、トマトを野菜か果物かを決める裁判があった
トマトが野菜か果物か、どちらかに決めないと困ってしまう、大変なことになってしまう、そういう人はほぼいないと思われます。議論が深まれば深まるほど、そんなのどっちでもいいじゃないかと言いたくなるのも人情です。ところが、アメリカではそうもいきませんでした。野菜か果物か決定しないと困るような事件が起こってしまいます。
今から100年以上も前ですが、アメリカである法律ができました。
「輸入野菜には、税を課すものとする」
――つまり、野菜を外国から取り寄せた場合、お役所に税金を払うことになったのでした。一方、果物のほうは無課税でした。野菜は税金がかかる、果物はかからない、そんな状況にご登場のトマトの輸入業者。トマトを輸入したい、でも税金は払いたくない、考えた末、彼らがひらめいたのは
「そうだ、トマトは果物だ。」
トマトは果物なので、税金は払いません、よろしく。輸入業者がこう主張しだしたので、役所も負けじと「いいえ、トマトは野菜です。税金はらってね」こうして起こったトマト論争。話は植物学者なども巻き込み大激論に。トマトは野菜か果物か、裁判所も決めあぐね、ついには最高裁へ。そこで出された結論が「トマトは野菜である」。輸入業者は泣く泣く税金を払うのでした……。
トマトが野菜となった理由は、
・トマトは畑でつくる
・トマトは食事のときに食べ、デザートとしては食べない
大きくこの二点だったそうです。植物学的には果物としたいところですが、税金の問題しかり、社会的な要素をもろもろ考慮した結果、生産や消費の観点から野菜と決めた方が都合が良かったのかもしれません。
アメリカではピザも野菜
アメリカではピザが野菜であると、なんと法律で決まっています。
トマトは野菜である
↓
ピザにはトマトソースがかかっている(大さじ2杯も)
↓
だから、ピザは野菜である(ヘルシー)
このような理屈です。まるでギャグのようですが、これはアメリカの学校給食と、その背景の政治が絡んだちょっと闇の深い話なのです。かいつまんで記しますと
アメリカの子どもは太っている、給食にもジャンクフード業界が進出している
↓
給食にテコ入れをしよう、ジャンクフードを追い出そう
↓
ジャンクフード会社をバックにつけた議員が大反対「ピザはトマトソースがかかってるからヘルシーじゃん」
↓
議会で承認、以降、ピザは野菜としてカウントへ
このような流れです。アメリカではトマトが野菜だからこそこのような話になったわけですが、もし果物だったら、ピザもフルーツになったのでしょうか……。
給食の改革が行われようとしたとき、ジャンクフードを減らして、もっと野菜やフルーツを摂ろうという目的だったわけですが、トマトがもし果物だったとしても、こんどはピザもフルーツ扱いになって、どっちにしろアメリカ人はピザを食べ続けるという。野菜にしろ果物にしろ、罪づくりなトマトなのでした。
「フルーツトマト」という二律背反
最近「フルーツトマト」なるものが流通し、テレビなどでよく見かけるようになりました。フルーツトマトとは、トマトの栽培方法に工夫を加え、糖度を何倍も上げたものですが、これがへたな果物より甘いとのことで話題になっています。
日本ではトマトはおおむね野菜でしょう。「果物なのでは」と指摘されれば一考の余地がある程度で、日常生活では日本人の誰もが野菜と思って食べています。その「定義のようなもの」がフルーツトマトの登場により揺らぐかもしれません。将来もしフルーツトマトが世界を席巻し、従来のトマトを駆逐したとするなら、トマトはそのとき「果物」に分類されているでしょう。農林水産省は「果実的野菜」とするかもしれませんが。
いま現在は、「野菜なのに果物」という二律背反を抱えた近未来的作物がフルーツトマトである、とそんな夢のある言い方もできるかもしれません。
今回参考にしたWEB
Wikipedia「トマト」、原田トマト「フルーツトマトは果物?野菜?」、